2023年12月28日、サウジアラビアの巨大都市計画NEOMの建設現場で、25歳のパキスタン人土木技師アブドゥル・ワリ・スカンダル・カーンが、崩落した安全柵の下敷きになって死んだ(*1)。人権団体ALQSTは、これをNEOM現場で初めて資料化された移民労働者の死として記録したが、企業側もサウジ当局も、まともな調査を行わなかったという(*1)。
同じ国、同じ産業を、まったく別の主語で語ることもできる。2025年11月、UAEの建設ロボット企業Buildroid AIが200万ドルの資金調達を発表した。投資家にはTesla・SpaceXへの初期投資で知られるTim Draper。NVIDIAのデジタルツイン基盤の上で、ブロック積みロボットが人手より最大10倍速く、4倍安く現場を仕上げるという(*2)。
一つの産油国が、同じ産業について、死者の記録と生産性の倍率を、同じ時期に同時に生み出している。この二つの語りをつなぐ論理を、本稿は追う。
身体の輸入という統治技術 ― 数字が示す規模
湾岸産油国は、都市を建てる資本を石油収入で用意したが、資本だけでは都市は建たない。都市を実際に組み立てたのは、資本で調達された身体だった。UAEの人口は2026年時点で約1,157万人、うち外国籍者は約1,024万人で全体の88.5%を占め、UAE国籍者はわずか11.5%にとどまる(*3)。民間部門の雇用に絞れば非自国民比率はさらに上がり、2023年時点で非エミラティの被雇用者数はエミラティの約74倍、比率にして98%を超える(*4)。建設セクターに限ればこの比率はほぼ天井に達し、労働者の9割超がインド・パキスタン・バングラデシュ・ネパール出身の移民だとされる(*5)。
サウジアラビアも構造は同じである。同国では推計1,300万人規模の外国人労働者が働き、外国人が総人口の4割近くを占めるとされ、民間部門労働力の約8割を外国人が占めるという(*6)。自国民雇用を義務付ける「Nitaqat(ニタカット)」制度でも、建設セクターの必要自国民比率は主要業種の中で最も低い水準(6%程度)に設定されていると伝えられる。それでもこの低い水準さえ達成が難しいのは、自国民が低賃金・重労働の現場仕事を引き受けたがらないからだとされる(*7)。
| 指標 | UAE | サウジアラビア | 確度 |
|---|---|---|---|
| 総人口に占める外国人比率 | 約88.5%(2026) | 推計で4割近く | probable |
| 自国民比率 | 約11.5% | ― | probable |
| 民間部門労働力に占める非自国民比率 | 98%超(2023) | 約80% | probable |
| 建設労働者に占める移民比率 | 9割超 | Nitaqat上の建設セクター自国民雇用義務は約6%(達成困難) | probable |

自国民が担わない仕事を、誰が担うのか。半世紀以上にわたる湾岸産油国の答えは「輸入する」だった。
カファラ、70年の制度史
その輸入を制度化した仕組みがカファラ(スポンサーシップ)制度である。雇用主(スポンサー)が外国人労働者の就労・在留資格を事実上独占的に管理する仕組みで、1950年代、石油収入で急拡大するインフラ需要に対し、人口規模の小さい産油国が海外から一時的な労働力を呼び込む手段として広まったとされる(*8)。労働者は雇用主の同意なしに転職も出国もできず、賃金未払いや移動制限といった問題が繰り返し指摘されてきた(*8)。
この制度の見直しは、バーレーンが2009年に労働相自らこれを「奴隷制のようだ」と評して着手したのが最初とされ、カタールは2022年のサッカーW杯を前に2019〜2020年にかけて制度を事実上終わらせたと国際労働機関(ILO)が評価している(*9)。そしてサウジアラビアは2025年、約70年続いたカファラ制度の廃止に踏み切った。移民労働者は契約終了後に雇用主の同意なく転職でき、出国・再入国もオンラインで申請できるようになったといい、対象は推計1,300万人規模の移民労働者に及ぶとされる(*10)。ただし人権活動家の間では、恩恵が投資家やホワイトカラー層に偏り、南アジア・アフリカ出身の低スキル労働者には十分届いていないとの指摘もある(*10)。
70年という時間の長さが、この地域の建設現場の性格を決めてきた。都市は移民労働者の身体を燃料に建てられ、その身体を輸入する権利と義務の枠組みが、ようやくいま緩み始めたところである。

「ブルーカラーへの依存を消す」という国家の発言
その同じ時期に、湾岸の政府は自動化を「労働力不足対策」以上の言葉で語り始めている。UAEの連邦身分証・市民権・税関・港湾保安庁と人的資源・エミラティ化省は、行政サービスの50%を自律的に処理するAI・ロボティクスの共同プロジェクトを打ち出した(*11)。2026年のダボス世界経済フォーラムでは、UAEのタニ・アル・ゼユーディ貿易相が、建設・製造業を念頭に、先端機械と自律技術によって「ブルーカラー労働への依存を取り除く」取り組みを進めていると述べたと報じられている(*12)。
これは婉曲な言い回しではない。政府高官自身が、自動化投資の目的を「外国人労働者を雇う必要を減らすこと」だと公の場で語った、という事実である。UAEの自動化政策はここで、労働生産性の議論から、誰の身体をこの国に住まわせるかという議論へと接続する。
資本はどこに流れているか ― AI基盤から建設現場まで
この接続を支える資本は、ロボット単体への投資ではなく、AI・計算基盤・都市実証・産業用地・国家資本という重層構造として動いている。UAEは連邦AI戦略で2031年までのAI国家地位確立を掲げ(*13)、Operation 300bn/Make it in the Emiratesは2031年までに製造業のGDP寄与をAED 300bnへ引き上げる目標を持つ(*14)。
Abu Dhabiは計算資本そのものを国家資本で押さえに行っている。Microsoftは2024年、Abu Dhabi拠点のAI企業G42に15億ドルを投資した(*15)。同年設立されたAI投資会社MGXはMubadalaとG42を創設パートナーとし、1,000億ドル規模の運用資産を目指すと報じられている(*16)。自動運転ではWeRideとUberが2025年、Abu DhabiのYas Islandで完全無人のrobotaxiサービスを開始しており、Dubai・Ras Al Khaimahへの展開も報じられている(*17)(*18)。
| 領域 | 主な主体 | Physical AIとの接点 | 確度 |
|---|---|---|---|
| AI国家戦略 | UAE政府 | 交通・行政・産業へのAI実装 | confirmed |
| AI資本・計算基盤 | G42、Mubadala、MGX | モデル・データセンター・クラウド基盤 | confirmed/probable |
| 自動運転 | WeRide、Uber | robotaxi、Yas Island・Dubai・RAK展開 | probable |
| 防衛・無人システム | EDGE Group | UAV、UGV、自律システム | probable |
| 建設自動化 | Dubai Municipality、04 ConTech Valley、Sobha Realty | ロボット建設、プレファブ、施工自動化 | probable |
| 産業誘致 | RAKEZ、KEZAD | 工場用地・倉庫・外資100%所有の税制優遇区 | confirmed |
現場に来ているロボットたち ― Buildroid、Sobha「70-70」、NEOMの投資
抽象的な資本の下に、具体的な機体が現場に入り始めている。Buildroid AIは3Dプリント住宅企業Mighty Buildingsの創業者Slava Solonitsynらが設立し、NVIDIA Omniverseのデジタルツイン上でロボットの動線をシミュレートしてからブロック積みロボットを実地に投入する手法をとる。UAEの現場で試験運用中とされ、2026年第2四半期からは大手ゼネコンとの提携で米国展開も予定しているという(*2)。10倍・4倍という数字はいずれも自社発表であり、第三者による検証結果ではない。

Dubaiでは2026年1月、04 ConTech Valleyの開設とともに、ロボット・自動化システムのみで住宅ヴィラを建てる構想が発表された。ディベロッパーSobha Realtyが掲げる「70-70戦略」は、2030年までに建設作業の70%をオフサイト製造(工場でのプレキャスト・モジュール化)へ移し、70%の自動化を達成するというものである(*19)。ここで代替されるのは、高層ビルの現場作業員というより、同型住宅・倉庫・インフラの反復施工を担ってきた労働の型そのものである。
Saudi ArabiaではPIFとNEOMがPhysical AI需要の核となっている。NEOMは26,500平方キロメートルのマスタープランを持つギガプロジェクトで、製造・物流拠点Oxagonを含む(*20)。NEOM Investment Fundは欧州の建設ロボティクス企業GMT Roboticsに投資し、鉄筋ケージ製造工程の自動化を狙っていると報じられている(*21)。人型ロボットよりも、鉄筋・型枠・プレキャスト・資材搬送といった工程別の自動化の方が、この規模の現場では短期的なROIを出しやすいとみられる。
生産性の物語と死者数の物語は、同じ現場から来る
一方でNEOMの建設現場は、労働問題の報道でも繰り返し名指しされてきた。英ITVのドキュメンタリーは、The Lineの建設に着工から約8年間で2万1千人の労働者が死亡したと報じたが、この数字はサウジ当局による公式な確認を得たものではなく、算出根拠を含め議論の対象になっている(*22)。Human Rights Watchは2024年12月の報告書で、サウジ当局が防げたはずの労働災害から労働者を守れておらず、遺族への補償も不十分だと指摘した(*23)。FairSquareの調査は、死因を特定する実効的な政策の欠如を問題視している(*24)。
ブロックを積むロボットと、崩落した安全柵の下で死んだ技師は、同じ現場で交差したという記録はない。だが両者は、同じ産油国の同じ産業―建設―に属する事実であり、同じ問いの異なる答えを体現している。次にこの国の建設現場で置き換わるのは、誰の身体か、という問いである。
再工業化と身体の輸入、二つの「脱・依存」
北米の再工業化論は、海外へ去った雇用を機械に肩代わりさせる話として語られる ― かつて自国民が担っていた労働を、今度は自国民ではなく機械が担う。湾岸のロボット投資が置き換えようとしている労働は、性格が違う。それはそもそも自国民が担ったことのない労働である。Nitaqatが70年近く、建設セクターにわずか6%という最低水準の自国民雇用すら義務付けられずにきたという事実が、それを裏付ける。労働力の国籍を切り替える政策は、自国民の選好を変えられずに苦戦してきた。自動化は、自国民の選好を変える必要が最初からない。
湾岸産油国にとって、ロボット投資は石油収入への依存からの出口であると同時に、その石油収入が可能にした「身体の輸入」という統治技術からの出口でもある ―断定はできないが、政府高官自身の発言と、投資の重なり方が、その方向を示している。
開いた問い
サウジアラビアがカファラ制度を廃止し、移民労働者が70年ぶりに雇用主の同意なく転職・出国できるようになったのと同じ時期に、その労働者たちが最も多く働いてきた産業―建設―へ、ロボットへの投資が集中し始めている。70年かけて手に入れた「動く自由」を使う相手の国に、その労働そのものがもう残っていないとしたら、その自由は誰のために勝ち取られたことになるのか。
出典
*1 Dezeen「ALQST documents "first death of a migrant worker on a Neom site"」(2024-11-20)、probable
*2 Zawya「Buildroid AI raises $2mln to launch 10x faster construction robots in the UAE, powered by Nvidia」(2025-11)、probable(資金調達自体は複数媒体で確認、生産性倍率は自社発表)
*3 Global Media Insight「United Arab Emirates (UAE) Population Statistics 2026」、probable
*4 UAE労働力統計に基づく集計報道(2023年時点の民間部門雇用者数比較)、probable
*5 Johns Hopkins大学公衆衛生大学院「Percentage of Migrant Workers in GCC」、probable
*6 Americans for Democracy & Human Rights in Bahrain「The systematic exploitation of migrant workers in Saudi Arabia」(2025)、probable
*7 Centuro Global「Saudization: What It Is and How to Comply」、probable
*8 Council on Foreign Relations「What Is the Kafala System?」、confirmed/probable
*9 Migration Policy Institute「As the Gulf Region Seeks a Pivot, Reforms to Its Oft-Criticized Immigration Policies Remain a Work in Progress」、probable
*10 Walk Free「Saudi Arabia has moved to end the kafala system to strengthen worker rights」(2025)、probable
*11 Gulf News「UAE launches Agentic AI and robotics project to boost labour market productivity」、probable
*12 Times of Dubai「UAE Expands Adoption of AI and Robotics In As Young Workers Steer Clear Of Low-Skilled Jobs」(2026年ダボスでのアル・ゼユーディ貿易相発言を報道)、probable
*13 UAE政府ポータル「UAE Strategy for Artificial Intelligence」、confirmed
*14 Make it in the Emirates / Operation 300bn関連資料、probable
*15 AP「Microsoft invests $1.5 billion in AI firm G42」(2024-04-16)、confirmed
*16 Bloomberg等「Abu Dhabi Targets $100 Billion AUM for AI Investment Firm」(2024-03-11)、probable
*17 The Verge「Uber's robotaxi service in UAE now includes fully driverless vehicles」(2025-11)、probable
*18 WeRide関連公開情報(Dubai・Ras Al Khaimahでの展開言及)、probable
*19 AS.com「Dubai esta construyendo la primera villa levantada unicamente con robots」(2026-01-29)、probable
*20 PIF公式「NEOM」、confirmed
*21 NEOM Investment Fund・GMT Robotics関連報道、probable
*22 Middle East Monitor「21,000 workers killed building Saudi's the Line project, media reports」(英ITVドキュメンタリーの報道を引用、2024-11-12)、probable(数字はサウジ当局未確認)
*23 Human Rights Watch「"Die First, and I'll Pay You Later": Saudi Arabia's Giga-Projects Built on Widespread Labor Abuse」(2024-12-04)、probable
*24 FairSquare「New report predicts surge in unexplained migrant worker deaths in Saudi Arabia」、probable
未確認事項・要フォローアップ
- UAE・サウジアラビアの人口・労働力構成の数値は統計サイトや二次報道の集計に基づく。政府統計局(UAE FCSA、サウジGASTAT)の一次データによる裏付けが必要。
- Buildroid AIの「10倍高速・4倍安価」という数値は自社発表であり、第三者機関や顧客による独立検証は確認できていない。UAE現場での実際の稼働台数・工程・導入企業名も未確認。
- Dubai 04 ConTech Valley/Sobha「70-70戦略」の実際の着工日、使用ロボット、工程別自動化率の進捗は未確認。
- NEOM Investment FundとGMT Roboticsの投資額、株式比率、NEOM現場での導入台数・工程・契約期間は未確認。
- The Lineの建設に伴う「2万1千人死亡」という数字は英ITVドキュメンタリーが報じたもので、サウジ当局は公式に確認しておらず、算出方法についても人権団体の間で議論が続いている。
- カファラ制度廃止(サウジ、2025年)の実施状況について、低スキル労働者・家事労働者への適用範囲や実効性は今後も継続的な検証が必要。
- WeRideのRas Al Khaimah展開について、運行ルート、許認可主体、商用化時期は追加確認が必要。
- UAE貿易相の「ブルーカラー依存を消す」という発言について、ダボスでの発言内容を報じた一次映像・公式記録の確認が望ましい。