2021年、投資家は倉庫ロボット企業Berkshire Greyに27億ドルの値をつけた(*1)。株価はその後まもなく12.95ドルの高値をつけたが、2年足らずで0.56ドルまで沈んだ(*2)。2023年、SoftBankが1株1.40ドルで同社を非公開化し、上場は終わった(*3)。同じ事業、同じロボット、同じ顧客リストに対して、公開市場はわずか2年半のあいだに27億ドルと3.75億ドル前後という、桁違いの二つの「答え」を出した(*3)。そして今から振り返れば、どちらも間違っていた可能性が高い。
2026年7月、この産業はもう一度、同じ質問を公開市場に投げようとしている。Agility Roboticsは25億ドル規模のSPAC合併で(*4)、Unitreeは上海STAR市場で(*5)、UBTechはすでに香港で株価を持ちながら(*6)、Figure AIは390億ドルの評価を私募だけで受け取り公開市場という審査自体を迂回している(*7)。上場という器の選び方は、資金調達の技術的な違いではない。各社が「四半期ごとの検証に、自分の物語がどれだけ耐えられるか」について下した自己採点である。
同じ賭けが、また始まっている
Agility Roboticsは2026年6月24日、Churchill Capital Corp XIとの事業統合契約を公式発表した(*4)。プレマネー株式価値25億ドル、想定総調達額6.2億ドル超。Churchill XI信託口座の4.2億ドルと、Foxconn主導のPIPE約2億ドルを組み合わせる、典型的な2020年代型SPAC構造である(*8)。公式発表では二足歩行ロボット`Digit`が9顧客施設で稼働し、累計6.5万時間超、次世代`Digit v5`で3億ドル超の複数年契約を確保したという(*4)。
この構造は、Berkshire Greyが2021年に通った道と驚くほど似ている。当時も「複数年契約」「稼働実績」「著名投資家の裏書き」が並び、株式市場は最初27億ドルの値をつけた。しかし上場後最初の1年で明らかになったのは、売上5,090万ドルに対して純損失1億5,340万ドルという中身だった(*9)。数字が並ぶことと、その数字が利益を生む構造になっていることは別の話であり、公開市場はその区別を、5年前に一度、痛みを伴って学んでいる。Agilityの勝負は、Form S-4で開示される監査済み財務が、この区別に耐えられるかどうかにかかっている。
| 項目 | Agility Robotics(2026) | Berkshire Grey(2021) |
|---|---|---|
| 上場手法 | Churchill Capital Corp XIとのSPAC合併 | Revolution Acceleration Acquisition Corp.とのSPAC合併 |
| 評価額 | プレマネー25億ドル | 統合発表時27億ドル |
| 主要投資家 | Foxconn(PIPE主導) | SoftBank(先行2.63億ドル出資) |
| 公表された強み | 9顧客施設、6.5万時間稼働、複数年契約3億ドル超 | 大手小売・物流顧客との商用契約 |
| その後 | S-4提出待ち、株主投票未実施 | 上場1年目で赤字1.53億ドル、株価12.95→0.56ドル、2023年非公開化 |
SoftBankという名前は、この二つの物語の両方に登場する。同社は2020年にBerkshire Greyへ2.63億ドルを投じ、SPAC上場時にその持ち分の一部を高値で手放したと伝えられる(*10)。そして2023年、暴落した同じ会社を1株1.40ドルで買い戻した(*3)。高値で売り、安値で買い戻す。その中間で株を持っていたのは、SPAC株を「次のテスラ」として買った個人投資家たちだった。

国家の審査は終わった。値段はまだない
Unitreeは2026年7月3日、中国証券監督管理委員会(CSRC)から上海STAR市場上場の登録承認を得た(*5)。3月20日の申請から73日という、STAR市場でも異例の速さである(*5)。計画では4.202十億元(約6.1億ドル)を調達し、40.45百万株超を発行、公開比率10%以上という条件から逆算した想定企業価値は約420億元(約59億ドル)になる(*11)。
審査を通過した目論見書は、これまで海外メディアの報道ベースにとどまっていた数字に、監督当局の確認という重みを与える。2025年売上は17.08億元、前年比335%増(*12)。売上総利益率60.27%。非経常損益を除いた調整後純利益6.001億元に対し、法定の帰属純利益は2.876億元にとどまる(*12)。ヒューマノイド事業の売上構成比は、2023年の1.9%から2024年に27.6%、2025年1-9月には51.5%まで急伸した(*12)。2025年のヒューマノイド出荷台数は5,500台超で世界シェア32.4%、単純計算で世界首位である(*12)。創業者・王興興氏は上場後も議決権の68.78%を握る(*12)。
国家の審査は終わった。しかし値段はまだついていない。CSRCの承認は上場の許可であって、上場そのものではない。発行価格と上場日は、この先数週間で別途決まる(*5)。Unitreeは、この産業のどの企業よりも透明な財務を国家機関に開示し、それでもなお「市場は何と評価するか」という最後の質問には答えていない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請〜承認 | 2026年3月20日申請 → 2026年7月3日CSRC登録承認(73日) |
| 調達予定額 | 約42.02億元(約6.1億ドル) |
| 想定企業価値 | 約420億元(約59億ドル、公開比率10%以上から逆算) |
| 2025年売上 | 17.08億元(前年比335%増) |
| 売上総利益率 | 60.27% |
| 調整後純利益/法定純利益 | 6.001億元 / 2.876億元 |
| ヒューマノイド売上構成比 | 2023年1.9%→2024年27.6%→2025年1-9月51.5% |
| 2025年出荷台数/世界シェア | 5,500台超、32.4%(世界首位) |
| 創業者議決権 | 王興興 68.78% |

値がついても、答えは出ない
UBTechは2023年12月29日、香港証券取引所に「ヒューマノイドロボット企業として初めて」上場した(*13)。公開価格は1株90香港ドル、調達額約10億香港ドル、個人投資家向け配分は5.16倍の応募超過だった(*13)。すでに2年半、市場は毎日この会社に値をつけ続けている。
それでも答えは出ていない。2025年通期売上は20.01億元、前年比53.3%増と急伸した一方、純損失は7.90億元で、前年より31.9%縮小したにとどまる(*14)。アナリストは損失縮小のペースが続けば2027年ごろに初の黒字化があり得るとみるが、これはあくまで予測であり確定した実績ではない(*15)。売上が伸びても赤字が消えない会社を、市場は「成長株」として買うべきか「まだ早い」と見送るべきか、2年半かけてもまだ決めかねている。値がつくことと、答えが出ることは、同じではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 上場日 | 2023年12月29日、香港証券取引所メインボード |
| 公開価格/調達額 | 1株90香港ドル、約10億香港ドル |
| 個人投資家応募倍率 | 5.16倍 |
| 2025年売上 | 20.01億元(前年比53.3%増) |
| 2025年純損失 | 7.90億元(前年比31.9%縮小) |
| アナリスト予想 | 損失縮小ペース継続なら2027年ごろ黒字化 |

検証を受けない、という選択
Figure AIは2025年9月、シリーズCで10億ドル超を調達し、ポストマネー評価額390億ドルを発表した(*7)。半年前のシリーズB(26億ドル)から実に15倍の評価上昇である(*7)。売上は非公開のままで、業界筋の推計では2025年の出荷は150台程度、2026年4月時点の生産ペースは月240台程度にとどまるとされる(*16)。
この会社の操業実態は、むしろ透明である。BMWスパータンバーグ工場では、ヒューマノイド`Figure 02`が11か月間の実地投入で3万台超のBMW X3の生産に貢献し、9万点超の板金部品を運搬、稼働時間は1,250時間を超えた(*17)。役目を終えた個体は次世代機`Figure 03`に道を譲り、退役した(*17)。現場の実績は確認できる。しかし、その実績を裏づける売上・粗利・契約単価は、私募の評価額という一つの数字の中に閉じ込められたままだ。公開市場という審査を受けなくても、資本は集まる。Figure AIが選んだのは、まさにその選択である。
三十四年、値段がつかなかった会社
この産業には、そもそも一度も公開株として値段をつけられたことのない会社もある。Boston Dynamicsは1992年の創業以来、34年間一度も黒字化していない(*18)。所有者はGoogle(2013年買収)からSoftBank(2017年)、そしてHyundai Motor Group(2021年、企業価値11億ドルで持分80%取得)へと渡り歩いたが、その間、一般株主が売買できる株式市場に上場したことは一度もない(*18)。
SoftBankは2017年から2021年までBoston Dynamicsを保有し、同時期にBerkshire Greyへも出資していた。同じ投資家が、同じ産業の「収益化に長い時間がかかる」という同じ問題に、二度賭けた形になる。Boston Dynamicsの答えは、財閥の設備投資項目として、公開市場の四半期審査そのものを免除されることだった。Berkshire Greyの答えは、公開市場に一度出て、暴落し、結局は非公開に戻ることだった。34年かけても解けなかった問いに、5年で答えを出そうとしたのが後者である。
2026年に同時進行するAgilityのSPAC、Unitreeの STAR上場、UBTechの2年半目の株価、Figure AIの私募継続は、それぞれが「この産業はどれくらいの忍耐を必要とするか」という同じ問いに対する、異なる賭け方にすぎない。
傍証:すでに値がついている隣接銘柄
倉庫・配送分野には、すでに公開市場の審査を長く受けている銘柄がある。倉庫自動化のSymboticは2025年11月、好決算とWalmart系顧客の追加受注で株価が急伸したと報じられたが、同社売上の約85%を単一顧客Walmartに依存し、2024年末には収益認識の会計誤りで株価が約36%下落した過去も持つ(*19)。歩道配送のServe Roboticsは、Uber Eats向け配送ロボットで2026年3月時点の日次稼働台数547台、四半期売上90万ドル規模と、事業自体はまだ小さい(*20)。両社の教訓は共通している。受注額や評価額の見出しではなく、「いつ、どの条件で売上が実現するか」「顧客がどれだけ集中しているか」が株価を動かすという教訓であり、この教訓はAgilityにもUnitreeにもUBTechにも等しく適用される。
未上場候補では、Apptronik(評価53億ドル)、AgiBot(香港上場観測)、Skild AI、Physical Intelligence(評価110億ドルで調達協議と報道)、Nuro(評価60億ドル)などが控えるが、いずれも正式な申請書類が出るまでは時期を断定できない(*21)。

公開市場という装置は、この産業に対してまだ一度も安定した判定を出していない。CSRCの審査は73日で終わったが、市場の審査に、終わりの日はあるのか。UBTechの株には2年半前に値がついた。それでも、その値が「正しい」かどうかの答えは、いまだに数字の外にある。
未確認事項・要フォローアップ
- Berkshire Greyの株価高値・安値(12.95ドル/0.56ドル)は金融データ集計サイトの数値に基づき、取引所一次データでの厳密な突合は行っていない。
- SoftBankがBerkshire GreyのSPAC上場時に持ち分の一部を売却したという経緯は、複数の二次情報源の記述に基づくもので、売却時期・株数などの一次資料(SEC開示)は未確認。
- AgilityはForm S-4、監査済み売上、粗利、現金燃焼、顧客別売上、Digit v5契約条件の開示待ち。株主投票はまだ実施されていない。
- Unitreeの発行価格・上場日は本稿時点で未確定。想定企業価値(約420億元)は公開比率からの逆算であり、確定値ではない。
- UBTechの2027年黒字化はアナリスト予想であり、会社としての公式ガイダンスではない。
- Figure AIの2025年出荷台数(150台程度)・2026年生産ペース(月240台)は業界推計であり、会社発表の確定値ではない。
- AgiBot、Apptronik、Skild AI、Physical Intelligence、Nuroは、正式なS-1、F-1、HKEX申請書、STAR招股書が出るまでは上場候補にとどまり、時期は断定しない。
出典
*2 stockinvest.us「Historical BGRY stock prices」、probable
*3 SPACInsider「Berkshire Grey (BGRY) to Be Acquired by SoftBank at $1.40 Per Share」、confirmed
*4 Agility Robotics公式「Agility Robotics to Go Public Through Merger with Churchill Capital Corp XI」(2026-06-24)、confirmed
*5 Caixin Global「Unitree Robotics Wins Approval for $618 Million STAR Market IPO」(2026-07-03)、confirmed
*6 EqualOcean「The first humanoid robot stock! Ubtech officially debuts on the Hong Kong Stock Exchange」、confirmed
*7 Figure AI公式「Figure Exceeds $1B in Series C Funding at $39B Post-Money Valuation」、confirmed
*8 StockTitan「Churchill to Merge with Agility Robotics in $2.5B SPAC Deal」、confirmed
*9 CB Insights「Berkshire Grey Stock Price, Funding, Valuation, Revenue & Financial Statements」、probable
*10 PitchBook「Berkshire Grey 2026 Company Profile: Valuation, Investors, Acquisition」、probable
*11 BigGo Finance「Unitree Technology's STAR Market IPO Registration Approved, Aims to Raise 4.2 Billion Yuan」、probable
*12 Humanoids Daily「Inside Unitree's Prospectus: Revenue Climbs and Profits Dip as Star Market IPO Hearing Approaches」、confirmed
*13 South China Morning Post「UBTech, maker of Stormtrooper robots, jumps in Hong Kong trading debut」、confirmed
*15 Simply Wall St「Ubtech Robotics (SEHK:9880) Stock Forecast & Analyst Predictions」、probable
*16 TSG Invest「Figure AI Stock: $39B Valuation — Is It a Buy?」、weak
*17 Figure AI公式「F.02 Contributed to the Production of 30,000 Cars at BMW」、confirmed
*18 Hyundai Motor Group公式「Hyundai Motor Group Completes Acquisition of Boston Dynamics from SoftBank」、confirmed
*19 MarketWatch「This $46 billion robotics stock is up 35% after a big win」、probable
*20 Barron's「Serve Robotics stock earnings」、probable
*21 CNBC「Figure AI valued at $2.6 billion as Bezos, OpenAI, Nvidia join funding」、probable〜confirmed